質マガではこれまで質屋について、あるいは質草についてお話ししてまいりました。 今回は少し趣向を変えて、質屋を開業するにはどうすればいいかをご紹介いたします。
私の住んでいる地域ではここ2年間に3軒の質屋がオープンしました。全国的に質屋が減少していくなか、近隣では次々と新規店がオープンするので、「質屋さんって案外簡単に開けちゃうんですね」とお客様から何度か声を掛けられたことがあります。
しかし、質屋を開業するのは傍から見るほど簡単ではありません。お客様の大切なモノをお預かりしてご融資する商売ですから、誰もが自由に質屋を開業できるわけはありません。保管設備の整備など一定の要件を満たし、きちんと営業許可を受ける必要があるのです。
では、一体どうすれば質屋を開業できるのでしょうか。早速、質屋開業に必要な要件についてご説明していきます。
質屋を開業するには、営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会に質屋営業許可を受けなければいけません。
質屋営業許可を受けるためには10個ほどの欠格要件があり、それに該当している人は許可を受けることができません。その中の1つに【質屋営業法第7条第1項の規定(保管設備)により、公安委員会が質物の保管設備について定めた基準に適合する質物の保管設備を有しない者】という要件があります。簡単に言うと、きちんとした質蔵がない営業所は質屋の許可が受けられないということです。
この基準は各都道府県の公安委員会がそれぞれ決めているので、多少の違いがあるかもしれませんが大阪府の場合を例に紹介させていただきます。
まず質蔵の扉は鉄製扉など盗難防止に有効な設備、及び堅牢な施錠設備を設けなければいけません。扉の厚さは15センチ以上必要です。さらに建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第百九条第一項に定める甲種防火戸又は乙種防火戸を設けなければなりません。
また、消火器の設置、空調設備の設置、耐火性、警報機の設置などが必要です。変わったところではネズミ返しの設置も必要とされています。「ネズミ返しって何?」と疑問に思う方がほとんどでしょうね。昔はネズミが多かったので、その名残です。万一、蔵にネズミが侵入してしまったら衣類等をかじられてしまい、お客様から預かった大切な品物が台無しになってしまいます。ですから、ネズミが蔵に侵入できないよう、蔵の入り口に傾斜のある鉄板を設置しておく必要があったのです。ネズミが少なくなった今でも、この要件は残されています。
このように質屋の保管庫(蔵)は様々な基準をクリアしないと公安委員会の許可を受けることができないのです。整理すると、下記のように質蔵は防犯性能、対災害性能に優れたものになっています。 実際、大地震の際にも店舗家屋は倒壊し焼けてしまいましたが、 鉄筋製の蔵だけが残っていたという例があります。
- (1)質蔵の扉は、盗難防止に優れ、頑強
- (2)防火・耐火性能に優れる
- (3)空調が整備されている
- (4)警報機の設置
- (5)ネズミ返しの設置
営業許可を受けている質屋のほとんどは、このような質蔵を設置してお客様の品物を厳重に保管しているので、安心して預けてください。
※例外的に、宝石・貴金属・時計等の小さいものしか取扱わない場合、耐火金庫の設置だけで営業許可を認可する都道府県もあります。
質蔵、店舗の審査基準をクリアすれば、めでたく開業!! というわけではありません。保管設備である質蔵の他にも店舗構造や店舗内の警備システムなどもチェックされます。
さらに、営業許可を受けようとする人物に対する審査があるのです。かんたんに言うと、身元がしっかりしていて、金品の管理がきちんとできる人物であることが要求されます。お客様の大切な品物を預かる商売ですから、なかには高価なものも含まれます。もし、怪しげな人物や金品の管理をきちんと出来ない人物が質屋を経営していたとしたら、預かったお客様のロレックスの時計やルイヴィトンのバッグを横取りしたり、勝手に売却して換金してしまうことがあるかもしれません。こういった事故を避けるためにも、質屋経営者には高いモラルと誠実さが要求されています。
つまり、質蔵、店舗などのハード面と、経営者というソフト面の両方について審査を受けなければならないのです。
経営者は自身も人物審査を受けているため、従業員を雇う際には能力、技能、マナー等はもちろんのこと、「身元がしっかりしている」ことを最重視する傾向にあります。それもあって、質屋の番頭や従業員は自身の家族・親戚や他の質屋の家族・親戚であるケースが多くなっているのです。このように、ハードもソフトも信頼性が高いため、「預けたモノを横どりされた!」といったような事故はほとんど発生していません。手前味噌ながら、質屋は預けて安心と言えるでしょう。